ルイス・ペルディゲーロ、懐かしさと本物のカンテ

 今週のインタビューでフラメンコ評論家のマヌエル・ボオルケスは「本当のカンテはもうかなり前に死んでしまっている」と言った。私個人としてはトマス・パボンが亡くなってから本当のカンテを“殺し続けている”ように感じている。小技でごまかすような歌い方で、現代の人たちの自主性を奪い、未来を奪うカンテの“殺人”によって。

リサイタルや夏のフェスティバルのために何時間も練習に励むカンタオールたちが、評論家たちが彼らのことを認めず、昔のアーティストの方が絶対的に優れていると言うのを承知の上で、このような“黒い音”(フラメンコらしい響き)の洞窟に深くのめり込み、希望の少ない環境で、自身のキャリアは損なわれ、フラメンコの歴史において名を残せないのを承知の上で、どんな心境でいるのか知りたいものだ。

*CDのカバー

こんな風に昔を懐かしむ気持ちに襲われているのは、小さいながら確実に、大きな評判になることもなく、謙虚に歩みを進める、このカンタオールの最新アルバムを聴いていないせいだろう。

ロマン主義の意地で、レコード会社「カロンテ・イ・カンバヤ」とそのディレクターのフェルナンド・ロサードが、横行する“カンテ殺人”から離れ、カンタオールのルイス・ペルディゲーロの3枚目のアルバムを発表した。

これ以上ホンド(フラメンコらしい深みがある)なアルバムは無いだろう。ルイス・ペルディゲーロは長年に渡ってフラメンコへの愛、それと実力を示し続けてきた。彼の理解するところの“本物の”カンテから1ミリも逸れることなく、オーソドックスに忠実な、その代表例のように、素直な、本物のカンテが歌われているので、人々を魅了するのだ。

オーソドックスなカンテの代表例のよう、と言うのは、このアルバムを聴くと、慣例に則った、ペーニャなどでの、8曲の、自分のカンテに対する姿勢をはっきり提示する勢いを感じるリサイタルを聴いているような感覚になる。その姿勢とは、フラメンコに関わる人は“24時間年中無休”で、何がフラメンコで、特に何がフラメンコでないものなのか、を知るために学ぶべきだ、というものだろう。

*アルバムに載せられているレトラと参加アーティスト一覧


1曲目はソレア、アントニオ・イゲーロのギターと共に、基礎に則ったもの。2曲目には昔の良さを感じさせる素晴らしいティエント・タンゴ。

続いてアルバムのタイトルにもなっているブレリア。個人的な好みでは、とても“カナステーラ”(かご売りをしていたヒターノたちを指す言葉だが、カンテにおいては他の文化の影響を受けたような、オーソドックスなカンテとは異なり、少々ポップスのようなノリのあるものを指す)な感じで、フラメンコ好き以外の聴衆や異なるフラメンコ的感覚も巻き込むような印象で、ホセ・カルロス・ゴメス(フラメンコギタリスト)の作曲した曲を彷彿とさせた。

サリーダが素晴らしいアレグリアスで軌道修正。ポル・アリーバ(フラメンコギターで用いられるコードの呼び方)で伴奏されるカンティーニャスはとても美しい響きだ。

ファンダンゴは世俗から離れ、彼の喉を通して高貴な一曲となった。非常にフラメンコらしく、ホンドで、甲高い声もなく、無理することもない。泉から水が湧き出るように始まるこのファンダンゴ。最後の締めも秀逸、甘美である。

シギリージャにおいてはファルセータまでもが輝くような出来。呻き叫ぶような声とその葛藤がアルバムのこの曲を黒に染める。最後はトゥエルト・デ・ラ・ペーニャのカバーレスで変調し、そのギター伴奏はカンテス・デ・イーダ・イ・ブエルタ(グアヒーラなどのような南米音楽の影響を受けたカンテ)に向かうような雰囲気を出す。この甘美な悲劇のフィナーレを飾る。

その後はへレスのブレリア。ルイスの個性も出しつつも、決して基本を忘れることはない。

この収録で、制作のアントニオ・ブランコと音響のアントニオ・ナバーロ“エル・ナビ”の素晴らしい働きがあったと断言出来る。特に、ギター伴奏無しで、さらに心をさらけ出させるようなカンテである最後のマルティネーテは、その響きの良さにより素晴らしい出来だ。この偉大な作品の有終の美となった。

伴奏の素晴らしいギタリストたちのことも忘れてはならない。いずれも権威ある、フラメンコ愛好家で、百戦錬磨のギタリスト。ルイスのソニケテに寄り添っていた。アントニオ・イゲーロ、個性が光るパコ・レオン、偉大なアントニオ・カリオンという面々。古典的で、迷子にならないよう分かりやすく明瞭な道筋を示す伴奏。

皆さん、このアルバムは絶対に買い。時間が経てば評判も付いてくることだろう。

本物のカンテだ。

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≪enlace producción musical cambaya≫


文:ホセ・カルロス・カブレラ・メディナ

訳:瀬戸口琴葉


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